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※16禁 むしこぶの薄桜鬼用出張版ブログ 女性向け・同人/意味が解らない方撤退推奨
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2010/10/25 (Mon)                  鬼神の嫁取り
沖ちづー。と、土方さん。ちょっと土沖っぽいけどホモってほどではないです。
油小路事件のすぐあとくらい。沖田ルート準拠なかんじなので沖田が羅刹です。
土方さんは沖田を可愛がりすぎだと常々思っているんですけど妄想だって知ってます。大丈夫。




++++++++++++++++++

「土方さん。お茶をお持ちしました」
 入れ、との不機嫌にも思える声が常態であることにはもう慣れた。千鶴は失礼します、と断りを入れて襖を開き、それから先客がひとりいたことにぱちくりと瞬いた。先客はだらしなく胡座を掻いて後ろ手に躯を支えたまま、ひらひらと片手を振って笑う。
「沖田さん、起きていて大丈夫なんですか?」
 先日羅刹となったばかりの身を案じ、遠回しに昼に起きていて大丈夫なのかと問うと気後れが顔に出たのか、沖田はちらと目を細めて不満げに僅かに唇を尖らせた。
「平気だよ。この頃調子がいいんだ」
「ちょっと待ってください、今お茶をもう一つお持ちしますね」
「いいよ。僕はそろそろ戻るから」
「おいこら、まだ話は済んでねえだろうが」
 殺気すら帯びた不機嫌な声に背を向け、沖田は千鶴の方を向いたままちろりと舌を出して見せた。
「お説教されてたの」
「……何したんですか、一体……」
 土方へ悪戯を仕掛けたり熱が引いたばかりなのに寝ていろとの言い付けも聞かずふらりと屯所の外へと出てしまったりと、そのたび後から叱られると判っていてなお沖田の態度は改まらない。こうやってからかって遊んでいることが楽しいのだな、と千鶴はここに来て間もなくに理解したし、最近ではそうやって構ってもらえることが嬉しいんだな、となんとなく感じるようにはなった。
 気まぐれな猫のような剣士は、とても淋しがり屋だ。誰も見舞わず放っておくと、皆が急がしければ千鶴のところへ、暇なようなら広間へとよく顔を出してくる。
 言えば余計なことをいうと殺す、などといつもの本気か冗談かも判らない笑顔で脅されてしまうのだろうから、それを口にはしないけれど。
「他にご用はありますか?」
「いや、ねえよ。下がってろ」
「はい。じゃあ何かあったら呼んでください。……沖田さんは戻るならお部屋へ戻ってくださいね」
 あのねえ君ねえ、と沖田は態とらしく溜息を吐いた。
「余計なこと言わなくていいの」
「いや、そいつの言う通りだ。もういいから手前ェも戻って寝てろ総司。部屋から出るんじゃねえぞ!」
「子供じゃないんだから」
「寝、て、ろ」
 沖田に調子を崩されるときだけはまるで子供のようにむきになる鬼副長は一言ずつ区切って釘を刺し、それからそうだ、と千鶴を見た。
「おい、千鶴。総司の飯は部屋に運んでやってくれ」
「ええ? ちょっと土方さん、」
「ほっとくと食わずに済ませようとするからな。完食するまで見張ってろ」
「だから、食べたくなったら食べてますって! 千鶴ちゃんも、別にほっといてくれていいから」
「そう言って食ってるとこなんかしばらく見てねえぞ」
「食べてなきゃ死んじゃうでしょう。食べてますよ」
 ねっ、と同意を求められたところで確かに沖田が食事を取っているところは最近目にしていない。寝付くことが多くなっていたから、皆で揃って広間で食べているときも沖田の姿はないことが多かった。
「……ええと……近藤さんとみかんを食べているところは、見ましたけど……」
「みかんじゃ腹は膨れねえだろうが」
 頼んだぞ、粥でいいから食わせてやれ、と後は話は終わりと背を向けた土方に、少し迷って千鶴はちらと沖田を上目遣いに見た。沖田は唇を尖らせ不満げにしながらも、座り込んだ体勢を立てる様子はない。
「もう行っていいよ、千鶴ちゃん」
「はい。あの、……お粥の他に食べたいものってありますか」
「何でも良いよ」
 何でも良いということはないだろう、と思いながらも頷いて、千鶴は腰を上げた。
「それじゃ、失礼します」
 白身のお魚を煮付けてあげようかな、と考えながら、千鶴は来たときと同じように手を振る沖田と背を向けたままの土方に頭を下げ、襖を閉めた。




「土方さん」
「ああ?」
 出て行けとも言わない代わりに説教の続きをする様子もない書き物をしている背に目を向けずに声を掛けると、投げやりな返事が来た。沖田はざらざらと皮のむけてきた剣胼胝を指で弄りながら続ける。
「あの子、お嫁にしちゃったらいいのに」
「なに言ってんだ手前ェは」
 ごふ、と軽く茶を吹いて、慌てて口元を拭った土方が呆れた顔で振り向く。
「だったら手前が嫁にしたらいいだろうが、総司」
「僕は駄目ですよ。人殺しなんだから」
「………それを言ったら隊士全員が人斬りだろう」
「僕は道具だもの。それに羅刹だし」
 さら、と沖田は先程告白させたばかりの懸念事項を口にした。
ずっと妙な咳をしていたし、松本医師が特別に気に掛け五日と空けずに様子を見に来るから労咳のほうは大分前から覚悟はしていた。だが、もしや変若水を飲んだのではと疑い始めたのは最近だ。
 聞けば、油小路での伊東暗殺の夜、鬼が襲来したそのときに飲んだのだと言う。ならば半月も経ってはいない。ごくごく最近のことだ。
「……道具だなんてこたあねえ。そんなこと思ってんのはお前だけだ」
 溜息を吐き、膝を回して向き直ると沖田は薄らと笑った。
「事実でしょ?」
「そんなに人間でいるのは面倒なのか?」
「そんなこと言ってないですけど、僕に出来ることは少ないですから」
 いっそ鬼にでも生まれればよかったなあ、と本気か冗談かも判らないことを嘯いて、沖田はそれで、と続けた。
「あの子、お嫁にしちゃってくださいよ」
「またそれか。つうかどこから出て来たんだよ、そんな話。大体お前、あいつはどう見ても……」
「だってあの子僕のこと好きなんですもん」
 誰の目から見ても明らかな以上、聡い総司が知らぬということはないだろう。随分と仲良くしているな、と思っていたが、いくらか前から急に突き放すような態度を取るようになったことは気付いていた。
 その頃には、もしかすれば千鶴すら自覚していなかった好意の気配に、総司だけは気付いていたのかもしれない。咳が酷くなり始めた頃ではあったから、自らの病にもうすうす感づいていた頃だろう。
 聡すぎて時々哀れになるどこか子供のままの青年に、土方は腕を組んでまた溜息を吐いた。
「俺はあいつを引き取れねえ。手前でなんとかするんだな」
「じゃあ、傷付けちゃうかもしれないなあ」
「男女のことならそういうこともあるだろうよ」
「襲っちゃったらどうしようかなあ?」
「お前はしねえよ」
 当然とばかりに答える土方に、沖田は少し目を丸くして、それからけたけたと笑った。
「土方さんって、ちょっと馬鹿ですよね?」
「うるせえな。……話が終わりなら部屋で寝てろ。日が落ちるまでにはまだ掛かる。辛ェんだろうが」
「労咳は治りましたよ」
 土方は目を細めて細面の顔を見た。確かに咳は大分治まっているようだし、ここしばらくは熱も出していない。怠そうなのは昼の合間だけで、もう少し安定すれば夜の任務には就けそうなほどだ。
 だが、肺病み独特の、透くような青白い肌はそのままだ。陶磁器のように美しくもある肌の色は死病の証だ。羅刹の証では、ない。
「………兎も角、今は寝てろ。体調が落ち着くまでは」
 嘘だとは言わずにそれだけ言って、土方は軽く手を振って追い払った。沖田は苦笑のような笑みを浮かべ、嘘を看破されたことに気付かないわけもないだろうに何も言わず、ただ腰を上げた。
「夜の巡察や見回りなら、そろそろ行けますからね」
「判った判った」
 いい加減な返事に毒づく言葉はなく、沖田はじゃあ言い付け通り寝てますね、と意味ありげな声で言った。
 何を企んでいる、と振り向いた土方の目に映ったのは、ぴしり、と閉じた襖だった。


 お粥を手ずから食べさせて貰ったのだとにやにやとする沖田とずるいずるいと騒ぐ平助を怒鳴りつけるはめになるのは、二刻後のこと。
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